(一財)白井そろばん博物館 館長/全国珠算連盟 理事長/(株)イシド 取締役会長


 



そろばんの可能性を大きく拓いた「いしど式」


石戸謙一(いしど けんいち)さんは、1973年に千葉県白井市でそろばん教室「石戸珠算学園」を開塾、株式会社イシドを創設されました。


その当時は小学生の習い事の代表格だったそろばん。現在では、珠算塾は1/14の規模にまで縮小したと言われています。ところが、⽯⼾さん直営のそろばん教室は 2021年春現在でなんと 300 教室にまで増え、⽣徒数は 5,500 ⼈超と成⻑し続けています。


成長の秘訣は、「そろばんはただの計算道具ではない」と考え、さまざまな能力を開発するツールと捉え直したことだといいます。


「そろばんをすることで『判断力』『記憶力』『集中力』『イメージ能力』が身に付きます。また、最後まであきらめない力、チャレンジ精神も養われます。指を動かすことで、右脳を活性化させてくれるんです。」


幼児期の能力開発ブームや脳トレブームなど、時代の要請にもうまくマッチさせながら、新しいそろばんメソッド「いしど式」が作られていきました。



自らを「新しいもの好き」と表現する石戸さん。2000年にはいち早くオンライン授業「インターネットそろばん校」も開校しました。


すると「いしど式」そろばんは、日本を飛び出して「SOROBAN」「ISHIDO-SHIKI」として浸透。グアテマラ、ポーランド、モンゴルなど世界7か国でも教室をフランチャイズ展開しているというから驚きです。


「ドイツ、ポーランド、ルーマニア、モンゴルをはじめとした海外・国内のそろばん教育者の支援や、モンゴルの小中学生たちの受け入れ活動支援など、さらに力を注いでいきたいと考えています。」


こんな柔軟かつ新しい発想ができる石戸さんの“やわらか頭”や“チャレンジ精神”も、そろばんで培われたものなのかもしれません。


 


珠算の伝道師がそろばん博物館の館長に


まさに「珠算の伝道師」と言える石戸さんですが、2011年62歳の時、一般財団法人全国珠算連盟の付属博物館「白井そろばん博物館」を開設し、館長に就任されました。日本で唯一の常設そろばん博物館の館長として、第二の人生を「珠算の普及と地域活性化」に捧げています。


日本で唯一の常設そろばん博物館「白井そろばん博物館」

博物館に入ると、石戸さん自ら来館者に対応してくれ、丁寧に館内を案内してくれます。地域レポーターが伺った時も、素人がする素朴な質問にもいやな顔一つせず、歴史や使い方などを分かりやすく説明してくださいました。



そろばん博物館の収蔵点数はなんと2,200点超!


算盤が1,000点、関連グッズ300点、構築物100点、絵画60点、関連品100点、絵画等50点、そろばん関連書籍600点と、とにかく見応えたっぷりです。



「そろばんってこんなに種類があるの?!」という驚きと、魅力的な多種多様な珍しい展示物に、時間を忘れて見入ってしまいます。


五月人形の一部にそろばんの珠を編み込んだ「そろばん大将」や、絵画に描かれた「隠れそろばん」を探す遊びなど、展示にも来る人を飽きさせない楽しい工夫が施されています。


こんなところにも石戸さんの“やわらか頭”が活かされているのだな、と感じます。



腰帯のあたりにそろばんの珠が編み込まれている「そろばん大将」

開館当初は300点ほどだった収蔵数だった展示物を、現在2,200点に増やし、今後も3,000点を目指しています。また、SNSを通じて博物館の魅力発信にも力を注いでいるのだそう。その熱意とバイタリティには頭が下がります。


 


そろばん博物館で白井市に潤いを


元来の物腰柔らかなお人柄に加えて、石戸さんには「地域とのつながり」を大切にする姿勢が強く感じられます。そろばん博物館を白井市に開いたのも、この地域への熱い気持ちからでした。


「白井市は東京までの利便性が高いうえ、農業、とりわけ梨の生産高は千葉県一を誇る自然豊かな地域です。しかし、市内には有名な観光施設や文化施設等が乏しい。『そろばんを通じて地域のコミュニティの核となる場所を提供したい!』という想いで、白井市に博物館を開設しました。」


博物館では、「春のそろばんフェスティバル」や「夏の博物館祭り」等の地域参加型のイベントを積極的に開催。また、20体の「そろばん道祖神」を街道沿いに設置して、地域のウォークラリー等で利用してもらっているそうです。まさに「地域のコミュニティの核」として活動を行っています。



「教育・文化は人間にとっての潤いです。文化の軽視はふるさと意識の希薄化につながりかねないと心配しています。コロナ禍で外出自粛が続く今だからこそ、自分の身近な場所にある文化・地域の良さに触れる機会を作ってほしい。当館のようなユニークでマニアックな施設にも、ぜひ足を運んでほしいと思っています。」


そろばんで、人や地域の可能性を拡げ、活性化させる。そういった教育・文化普及活動は「人間にとっての潤い」と、石戸さんは力強く語ってくださいました。


まだまだ石戸さんのチャレンジは続きそうです。


◎レポートbyちばしん地域レポーター Rina


 


白井そろばん博物館
千葉県白井市復1459-12
https://soroban-muse.com


全国珠算連盟
http://sfoj.or.jp